第24回(2008年)受賞者 / 基礎科学部門 / 生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)

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アンソニー・ジェームス・ポーソン (Anthony James Pawson)

カナダ、イギリス / 1952年10月18日
分子生物学者
マウントサイナイ病院サミュエル・ルネンフェルド研究所 特別上級研究員、トロント大学 ユニバーシティ・プロフェッサー

「シグナル伝達機構におけるアダプター概念の提唱と実証」
シグナルタンパク質に特徴的なアダプター構造が存在し、アダプターを介したタンパク質の会合が細胞内シグナルの連鎖カスケードを誘導し細胞の増殖や分化を制御するという概念を提唱し実証した。この概念は、シグナル伝達の基本的なパラダイムの一つとして、生命科学の発展に極めて大きな貢献を果たしている。

プレス資料

シグナル伝達機構におけるアダプター概念の提唱と実証

ポーソン博士はリン酸化された受容体が、SH2ドメインと呼ばれるモジュール(基本単位)を持つアダプタータンパク質と結合することによって、その後の細胞内情報伝達が連鎖的に誘導され細胞の形質転換がもたらされることを発見すると同時に、この概念を広く提唱することにより、細胞の増殖と分化を制御する重要な分子的基盤の解明に大きく貢献した。

人間の体は約60兆個の細胞からできており、その細胞たちが情報を正しく伝え、有機的に活動していって生命体が維持されていく。また一つひとつの細胞について言えば、その表面に届いた他細胞からの情報が細胞内に正しく伝達され、多彩な細胞機能を活性化させることによって人体へのいろいろな効果が現れる。癌や糖尿病、自己免疫疾患などの病気は、いずれも細胞内の情報伝達の誤りによって引き起こされる。ポーソン博士は1980年代の中ごろから90年代前半にかけて、細胞内での情報伝達の仕組みについて新しい発見をすると同時に、それを発展させて細胞内情報伝達について新しい概念を提唱した。博士の研究は、発生生物学、神経生物学、内分泌学、免疫学、血液学、癌研究などバイオメディカル研究のほぼ全ての分野に大きな影響を与えるとともに、癌や糖尿病などの疾病のメカニズム解明にも広く役立っている。

【細胞内シグナル伝達とは】
細胞間で情報を担うホルモンなどのメッセンジャー分子が、受け手の細胞にある受容体(レセプター)に結合すると、それが導火線となって複数の分子の相互作用により、メッセンジャー分子の情報が連鎖的に細胞内部に伝達されていく(シグナル伝達)。それによって、細胞の分化や増殖、あるいは免疫反応などが起きたり、タンパク質が合成され細胞外へ分泌されたりする。このような細胞の反応により生命体が維持されている。80年代以前までは、細胞の中は細胞質のスープで満たされ、タンパク質や細胞内小器官(核やミトコンドリアなど)が漂っていると考えられていた。そのため構造らしいものがないのに細胞の奥深くまで確実に情報を伝えるメッセンジャー分子の存在を理解しようとしても無理だった。現在のような理解が進んだきっかけは、アミノ酸の一種であるチロシンのリン酸化反応を促す受容体型チロシンキナーゼが細胞質内の特定のタンパク質と結合することが発見されたことだった。

【ポーソン博士の業績】
ポーソン博士のグループは1980年代に、リン酸化された受容体がSH2ドメインと呼ばれるモジュール(基本単位)を持つアダプター(タンパク質)と結合することによって、その後の細胞内伝達が誘導され細胞の形質転換がもたらされることを発見した。それまではリン酸化により、分子の構造が次々と変化し、シグナルが細胞内に伝わっていくのではないかと考えられていたが、実際は受容体の化学構造はまったく変わらず、SH2ドメイン側の正の電荷がチロシン残基に付加したリン酸基の負の電荷に引き寄せられるように合体することが分かった。さらにこのアダプターが複数のモジュールをつなぎ、ネットワークを形成するという概念を提唱することにより、シグナル伝達系に新しいパラダイムを構築した。

【シグナル伝達の効果】
細胞内シグナル伝達の異常が原因となる病気はたくさんあるが、その代表的なものは癌である。癌は無制限の細胞分裂と他細胞への転移に特徴がある。例えば細胞分裂にかかわる遺伝子に変異が起きると、異常なタンパク質は、実際には細胞増殖の指令が出ていないのに絶えず指令を受けているように働き、無限に増殖を繰り返す。逆に細胞内シグナル伝達が静か過ぎて起こる病気が糖尿病である。すい臓から送られたインスリンのメッセージを受容体が細胞内の分子に中継できないと糖尿病になる。このように細胞内シグナル伝達の解明が、今後ガンや自己免疫疾患などの治療に貢献するものと期待されている。

詳細は業績ページをご覧下さい。