先輩たちの声

京都中がキャンパスだ

「芝生のある中庭でお弁当を食べてみたいな……」。

そんなささやかな憧れを抱くほど、平安女学院大学のキャンパスはこじんまりとしている。さらに、1学年の学生は60人ほど。若野さんはそんな閉じた世界から飛びだしたかった。「建物は小さいが、京都中がキャンパスだ」。学長のその言葉に共感し、ボランティアや課外活動に積極的に参加しようと決めた。そんなときに出会ったのが、京都賞のボランティアだった。

京都賞のボランティアは大きく2つに分かれる。ひとつは、授賞式や記念講演会などの当日の運営をサポートする「当日ボランティア」。もうひとつは、数か月前から準備を重ねてボランティアのチームを束ねる「コアボランティア」だ。若野さんは、大学1、2年生のときに当日ボランティア、大学3年生になった昨年はコアボランティアとして参加した。

「おもてなし」で響く歌声

昨年は、式典を盛りあげる出演者をもてなす「接遇チーム」として、9人のメンバーを率いた。おもてなしをしたのは、京都聖母学院小学校の合唱団の子どもたち。帯を渡したり、靴下を脱がせてあげたりして、着物の着付けを手伝う仕事だ。「何学部? サークルは? 出身はどこ?」。若野さんはまず、メンバーに積極的に話しかけるように心がけた。意見を言いやすい雰囲気づくりを大事にして、いろんな事態に対応できるように本番にそなえた。それでも本番では、予測していないことがおこるものだ。

「もう少し早くしてよ!」。授賞式の当日、控え室の空気がピリついた。舞台にたつ子どもたちの頭を華やかにいろどる紅葉をのせるのに、もたついてしまったのだ。そんな空気をよそに、子どもたちは自由に動きまわり、本番直前にトイレに行こうとする子もいる。慌ただしく時間がすぎていき、子どもたちを舞台に送りだした。

名も知らぬ 遠き島より 流れ寄る 椰子の実一つ ──♪

合唱がはじまった。眉をあげ、眼をむいて、下あごをめいいっぱいおろす。そんな子どもたち一人ひとりの顔が、舞台袖のモニターに大きく映しだされた。あの子はおっとりしてたな。あの子はちょっとませてたな。あの子はお母さんが大好きで、ホームシックになってたな──。

のびやかに歌う子どもたちのおおらかさに包まれ、張りつめていた緊張がゆるんだ。ふと気づくと、子どもたちの表情が涙でにじんでいた。「すごいよかったよ!」。舞台から戻ってきた子どもたちに若野さんが声をかけると、「頑張ったー!」と元気な声が返ってきた。

「若野さんと同じチームでよかったです!」。帰りぎわに会場の入り口で、メンバーの一人から言われた。その言葉は、昨年に自分が所属したチームリーダーに贈った言葉だった。「まさか1年後に自分に返ってくるとは」。大事にしてきた団結力が実り、うれしさがじんわりと広がった。

みんなでつくる温かい京都賞に

「今年はリーダーやってみぃひんか」。稲盛財団の職員が、4年目をむかえる若野さんを誘った。バリバリ仕事をして背中でひっぱるリーダーもいるが、若野さんはそうではなく、まわりを明るくしてメンバーの力を引きだすタイプだ。そんな期待をこめて声をかけた。

私にできるだろうか。最初は不安が大きかった。しかし、集まったほかのコアボランティアの顔ぶれを見てほっとした。「みんな頼れるなと思いました。みんなで協力してアットホームな温かい京都賞にしたいです」。2019年の京都賞が動きだす。