編集後記

Vol.4 2021.4.28

 

 お気に入りの店を訪ねたら、もぬけの殻になっていた。春になって、そんなことが増えた気がする。○年間続けられたのは皆様のおかげです。本当にありがとうございました。店主の感謝の思いを綴った張り紙が、役目を終えたドアの脇に貼られている。マジックの文字が雨にさらされ、ところどころ滲んで読みづらい。入り口には使い古されたベニヤ板が重ねて打ちつけられ、釘の先がこちらに貫いていた。

 もうかれこれ二時間ほど、昼ごはんを食べる場所を求めて彷徨っている。途中、古本屋に吸いこまれて十冊の古書が入った紙袋を握ることになった時間も含まれているのだが、それはそれとして。目当ての店はどこもかしこも、○日をもちまして閉店しましたとか、緊急事態宣言を受けて、などの張り紙が貼られシャッターが降りている。

 ようやく小綺麗なパン屋を見つけて、輪切りのゆで卵とハムをはさんだロールパンと、ポテトサラダを添えた腹われパンを買い、通りの名にもなっている佛光寺のベンチに座って食べることにした。境内には太い幹の銀杏がある。秋の終わりに黄色く焼けた葉をごっそり落としたはずだが、もうすっかり若葉が繁り春の光をまとっていた。(F)

 在宅勤務の日は、「出勤」前に、近くの公園に散歩にゆきます。夜のあいだに山から下りてきた空気は、まだひんやり澄んでいて、住宅地の中にある小さな広場の上に、その日その日の空が広がっています。目の前の景色が変わると、自然と心の状態も変化して、新しいリズムが動き出します。気持ちをONに切り替える、朝のささやかな儀式です。

 まだまだ、遠出や旅行でリフレッシュはむずかしい状況のようです。お店は閉まり、屋外のイベントも中止に……。日常の延長のような、むしろ静かな大型連休を迎えようとしています。誰かの「いつも通り、おうちで過ごしましょう」という言葉に思わず笑ってしまいました。わたしたちの「いつも」の風景は、いつの間にかリセットされたのかもしれません。

 そんな中にも変わらず季節はめぐり、満開だった桜の花びらは跡形もなくどこかへ。やわらかく透けるようだった若葉も、1日ごとに緑を濃くしていっています。空の青も夏めいてきました。さわやかな風光にほんのり元気をもらいます。どうか明るい光の差し込む5月となりますように。(I)