3S交流会を終えて
─ポスター発表者、今年度助成対象者の声─

コロナ禍を経て4年ぶりに開催された、稲盛研究助成のこれまでの対象者が参加する「盛和スカラーズソサエティ(3S)交流会」。今年度は「交流」にねらいを定めてポスター発表が初めて企画され、活発な議論が交わされました。交流会を終えたばかりの発表者と今年度の助成対象者の方に、感想を聞いてみました。

稲盛研究助成金贈呈式と3S交流会のレポート記事はこちら

ポスター発表者


深澤遊さん 東北大学 大学院農学研究科 助教
発表タイトル:雨後のキノコの電気的な会話

異分野の研究者に自分の研究が面白いと感じてもらえると、すごく自信になります

初めて3S交流会に参加しましたが、ポスター発表では深く交流できて名刺をたくさんいただきました。興味があると言ってくれた方にコンタクトして、いろいろ教えていただいたり、もしかしたら共同研究になったりするかもしれませんし、すごく良かったです。僕の専門は農学系で、キノコに電極を刺して電位を測定しているのですが、ポスター発表では脳科学の先生から、脳の神経の場合だとシナプスで化学的なやりとりをしているけどキノコの場合はどうなのか、というメカニズムの質問をいただき、工学系の先生からは、測定方法のアドバイスをいただきました。異分野の研究者に自分の研究が面白いと感じてもらえると、すごく自信になります。思いもしなかった意見を言ってもらえたり、学際的な研究のコラボレーションにつながる可能性もあったりするので、すごくエキサイティングだと思いました。

 


宮本明子さん 同志社女子大学 表象文化学部 准教授
発表タイトル:小津安二郎と国語教科書:1950年代を中心に

たくさん質問をいただき、今後の研究のヒントになりました

普段は出会えない分野の方との新しい出会いもあり、同時に6年前の贈呈式で初めてお会いした先生に再会できたことも嬉しかったです。ポスター発表を通して今後の課題なども見えてきて、とても有益な時間でした。金澤理事長、財団の皆さんに感謝しています。台本や国語の教科書など、普段はあまり人の目に触れないことを研究しているので、そこに援助いただけたことを嬉しく思っています。「(研究している)小津安二郎だけでなく、他の監督の場合はどうなのか?」など、たくさん質問をいただき、今後の研究のヒントになりました。これまであまりポスター発表に参加する機会はなかったのですが、全く別の分野のポスター発表でも、私にもわかりやすく説明してくださったので、ポスター発表って非常に面白いなと思いました。

 


石川麻乃さん 東京大学 大学院新領域創成科学研究科 准教授
発表タイトル:トゲウオの季節性繁殖の進化とその分子遺伝基盤

共同研究させていただきたい先生も見つかりました

今回は異分野の先生方の前で発表するということで、ポスターの内容も普段の学会発表とは大きく変えました。専門的な内容はなるだけ省略して、より研究の本質的なテーマが伝わるように工夫しました。この経験は助成金の申し込みなどにも役に立ちそうですね。他の人の発表で特に気になったのが、アフリカの人たちが顔の表情をどう認識するのかという話です。私はトゲウオの研究をしていますが、彼らも顔の認識をしているようなんですね。彼らは巣作りをしているとき、同種を認識すると戦いに行きますが、他種の魚に対しては無関心です。こういった認識の問題について刺激を受けて面白かったです。ほかにも共同研究させていただきたい先生も見つかりましたし、本当に来てよかったですね。

 


本堂毅さん 東北大学 大学院理学研究科 准教授
発表タイトル:経済と感染対策はトレードオフか? 物理学の発想で考える。

多分野の専門家と交流する機会を作ってくださりうれしく思っています

私の発表はパンデミック対策についての学際的な内容で、私自身の研究対象も物理学、科学技術社会論、法学、医学と多岐にわたります。パンデミック対策のような大きな社会課題では、ひとつの専門分野だけでは解決の道筋を示すことができません。しかし現実として、複数の専門分野にまたがる研究を正しく評価する仕組みが制度的・人材的な面において学問の世界全体で未だ脆弱であり、学際研究のモチベーションを妨げています。そのような中で稲盛財団は早くから学際研究の重要性を認識し、今回もこのような多分野の専門家と交流する機会を作ってくださりうれしく思っています。今回発表した研究も、2000年度の稲盛研究助成で行った熱力学の研究からアイデアを発展させることでできました。

今年度助成対象者


阪本鷹行さん 徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 講師

最終的に目標をどこにもっていくかの考え方や見方が違うなと勉強になりました

学会のポスター発表と同じく、発表者の人と身近に話せるので、聞きたいことをたくさん聞けました。つながりをつくるにはすごく良かったと思います。私の専門は微生物で農学関係なのですが、今回はマウスの精子の医学系の話を聞きました。これまで自分が手を付けていなかった部分の話が聞けたので、ありがたいなと思いました。私は化学や生物学の生体反応などをみているのですが、医学にどのように役立てていくかは専門としていないので、最終的に目標をどこにもっていくかの考え方や見方が違うなと勉強になりました。

 


岩崎由香さん 理化学研究所生命医科学研究センター チームリーダー

相談できるポスター発表があってとても勉強になりました

稲盛研究助成では自然科学系だけではなく、人文社会科学系の方も助成されているというのが印象的で新鮮でした。普段は学会に出ても自分と近い分野の話しか聞くことができないことが多いですが、今回は色々な分野のポスターを見ることができて楽しかったです。もちろん、自分と近い分野の人とお近づきになれたのも良かったです。私は今、自分自身の研究で初めて使う細胞技術にチャレンジしていて、ちょっと上手くいかないところがあって困っていたのですが、ちょうど相談できるポスター発表があってとても勉強になりました。今後の研究に活かせそうです。

 


山本健人さん 北九州市立大学 法学部 准教授

「自分の分野だったらこの成果をどう使うんだろう?」というような示唆がありました

全く違う専門の発表を聞きました。細かいところはもちろんわからないのですが、結論や方向性はわかる感覚があって、「自分の分野だったらこの成果をどう使うんだろう?」というような示唆がありました。法学はドライに考えがちなところがあって、対立しているものをあとから法的にさばくことになるけれど、それって勝ち負けの話になってしまうんですよね。結論が出た後、問題が本当に解決したといってよいのか? という課題が残る感じがして。もっと当事者が納得するような形の落とし所で法的な判断はできないのか、ということを考えると、例えば(異なる分野の)異文化コミュニケーションを応用したアプローチもできるかもしれません。法学だけに閉じこもっていると見えないものがある一方で、他の分野のアプローチを取り込んでいくと、法学の畑の人からは邪道ととらえられることもあり、そこは少し困っているところですね。分野的にポスター発表をする慣習はないのですが、今回の発表を見て、やってみても面白いかもと思いました。

 

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