本年度から「はぐくむ」「たかめる」の2コースに拡充された稲盛研究助成。今年も助成金贈呈式に続いて3S交流会を開催し、本年度と過去の助成対象者、選考委員や財団関係者らが、ポスター発表を通じて分野の垣根を越えた交流を行いました。交流会に参加したポスター発表者と本年度助成対象者、そして助成対象者の選考に携わった選考委員の声を集めました。
ポスター発表者
篠田 一馬 さん(宇都宮大学 工学部 准教授)
発表タイトル:「メタマテリアルによる分光偏光同時撮影と病理診断支援に向けた多目的疑似染色法の開発」
異なる視点からの提案に刺激を受けました
遠隔で迅速に病理診断を行うためのセンシング技術と画像処理技術について発表しました。医学やマテリアル系など多分野の方に来ていただき、臨床検査技師の資格を持つ方から診断について伺ったり、深層学習やマテリアルのつくり方について質問を受けたりしました。エンジニア出身ということもあり技術起点で考えがちですが、医療・バイオ分野の方の課題起点の発想から新たな医学的応用の提案をいただき、工学だけでは得られない視点の新鮮さを感じました。実際に他分野の方との出会いが、自分一人では成しえなかった研究成果につながった経験もあり、私がしているような学際的な研究にとってこうした場は非常に重要だと感じています。
佐古香織 さん(近畿大学 農学部 講師)
発表タイトル:「昆虫ホルモンによる植物耐塩性メカニズムの解明」
大事な課題を再認識させられました
私は植物が塩害に対抗する仕組みを解明することで、作物の収量の改善や持続的な農業に貢献したいと思って研究しています。ポスターセッションでは、植物が持つ昆虫ホルモンが耐塩性に機能することを偶然に見つけ、その生理学的なメカニズムについて明らかにしたことを発表しました。その中で、昆虫との生物学的な相互作用についても研究してみてはどうかというアドバイスを聴きに来てくださった方から頂きました。私自身もその必要性は感じてはいたものの、研究方法について思案しながらも後回しにしていた部分でしたので、指摘していただいたことで、やはり今後取り組んでいかなければと気持ちを新たにすることができました。
鷲谷 洋輔 さん(東北大学 大学院教育学研究科 准教授)
発表タイトル:「『動点観測』の可能性-見習いマタギのエスノグラフィー」
知的好奇心に満ちた対話の場でした
知的好奇心をみんなで高めようという、ポジティブな雰囲気を感じました。質問も素朴な問いかけだったり、興味から聞いてもらえたりするものが多かったです。理系の研究者の方、例えば公衆衛生されている方など、自分の研究とデータの扱い方が違うのに対して、ジャッジメントをするのではなくて、そこからの対話の糸口をすごく上手に導いてくれるので、すごく楽しかったです。今後、学術的な成果をどう考えるかといったときに、自分が向かっている方向は毛色が違うということを認識する機会になりましたし、それに対するコメントもいただきました。そこはこのままもっと踏み込んで、例えば論文にしづらいのであれば、書籍という形で出していろんな人に読んでもらえるようにしたいですね。
今年度対象者
田村 友和 さん(九州大学 大学院医学研究院 准教授)
坂井 禎介 さん(奈良女子大学 研究院生活環境科学系 専任講師)
20年ぶりの再会に驚きました
坂井(敬称略、以下同):私が今回採択された研究テーマは、いわゆる「東屋(あずまや)」と呼ばれる建物の歴史で、従来の建築史だけでなく美術史や庭園史学なども含めた分野横断的・国際的な研究を目指しています。
田村:私は、似た遺伝子構造を持ち同じ臓器に感染するにもかかわらず、急性で終わるウイルスと慢性化するウイルスの違いが生じる分子基盤の解明を目指しています。
坂井:私たちは高校の同級生で、今日卒業以来20年ぶりに再会して驚きました。研究内容について分かりやすく説明してくれて、20年でこんなにも変わるものかと思いました。
田村:私も全く同じ印象を持ちました(笑)。(坂井さんは)建築そのものだけでなく、絵画や背景にある文化まで含めて建築全体を理解しようとしていて、研究の視点が広いなと感じました。また、学生指導の難しさなどについても意見交換ができ、普段接している人とは異なる視点を持つ相手と率直に話せたことが嬉しかったです。
坂井:ほかの方のポスター発表も、分かりやすく説明していただいて興味深かったです。一方で、変動する社会の中でその研究がどのような意義を持つのか、あるいはどのように変化してきたのかといった歴史的視点を加えれば、研究の意義をより多くの人に伝えられるのではないかと感じました。
田村:私は生物系なので、同分野のポスター発表を中心に見ていました。また、見えないウイルスを可視化する研究などにも取り組んでおり、材料系におけるカメラや光の波長に関する話はウイルス学にも役立つので、何か一緒に取り組めることがあればいいなと感じました。
若林 智美 さん(奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 助教)
助成期間が2年になり、腰を据えた研究が可能になりました
稲盛研究助成は今回2度目の採択になりますが、助成金の使い道の自由度が高いこと、そして私の専門は基礎生物学なのですが、社会貢献に直結するテーマでなくても評価していただけるのがありがたいです。また、新コースで期間が2年になったというのもメリットが大きいです。私の場合は研究対象が植物ということもあり、植物を育てる時間が必要になります。前回は開花がテーマでしたが、データを1回取るだけで何か月もかかってしまうこともあり、パブリッシュするところまでいきませんでした。交流会では、近い分野だけでなく人文系の研究など、普段行く学会では触れられないテーマの発表をみることができてすごく刺激になりました。
選考委員
安浦寛人 さん (国立情報学研究所 副所長)
人と人をつなげて新しい分野へのきっかけに
今までの稲盛研究助成の延長に位置づけられる「はぐくむ」に加えて、「たかめる」というロングレンジの助成、さらにInaRISの10年間の助成という、段階の違いをつけた幅広い分野への支援が稲盛財団の助成金の特色だと思います。(懇親会の挨拶で)中西先生が仰ったように、AIがいろんな分野に入ってきて全く新しい手法で研究ができるようになってきましたが、このような新しい手法を含めて手広くサポートできるようになったので、それが成果につながることを期待しています。
助成金贈呈式・3S交流会については、何より会員の皆さんがお互いを知るよい機会を提供しているのが最大の意義だと思います。というのも、人と人とがつながることによって学問領域のベースが広がることが、研究が次のステップに進むとき、あるいは新しい分野が開かれるときの鍵になると思うからです。
交流会で発表されていたポスターはそれぞれに興味深いものでしたが、特に文系のポスターに多くの人々が集まっていたのは印象的でした。また、私が数年前に(稲盛研究助成対象者に)選んだ方が、この交流会がきっかけになって研究が大きく進展したという話を聞けたのが、個人的にとても嬉しく感じたことです。







