小俣ラポー 日登美 Hitomi Omata Rappo

京都大学白眉センター特任准教授※助成決定当時

2024稲盛研究助成人文・社会系

採択テーマ
奇蹟という焦点——聖遺物をめぐる「事実」構築過程の歴史
キーワード
研究概要
聖遺物は、聖なる人間の遺物で、カトリックキリスト教では信仰の対象となって尊ばれる。ただし、文字資料なしにその真贋が保証できず、それを通じた「奇蹟」の発現が歴史上その真正性を証明してきた。したがって「奇蹟」の証明は、かつては教会裁判の議題となって綿密に議論され、現在は科学実験の対象となっている。特定の出来事が「奇蹟」を検証する資料に反映される過程、資料の読解が「事実」の認識に反映される過程が、歴史「事実」の構築過程とみなされうる。その意味で本研究は、歴史ができるプロセスについての歴史研究である。

助成を受けて

連作『ジョジョの奇妙な冒険』の中でも私が特に好きなのが、第7部『スティール・ボール・ラン』です。科学が席捲し始める世紀にあって、イエス・キリストの聖遺物探索に駆り出された特異な人々が、奇蹟的な現象に翻弄されながら、蒸気機関車と競争しつつ北米大陸横断のレースに挑戦する群像活劇です。オカルト、超常現象、そして奇蹟━━まともな科学研究に携わる人ならおしなべて眉を顰めるに決まっている要素がつまっています。それなのに(それだからこそ)人を惹きつける話なのです。現在の学究は、科学を手本にクリアな「事実」を追求していますが、胡乱なものとそうでないものの境界線は、そんなにはっきりしているものでしょうか。実際、奇蹟の証明を真剣に行なってきた教会裁判の手法が、実は科学実験の証明過程のもとになったことや、奇蹟の証明が現在も科学的な手法で果敢に挑戦されていることは、あまり知られていません。人は目に見える明らかな「事実」を絶対なものだと思う傾向にあります。けれども、それが「事実」として成立するに至るまでの過程には、自明な「事実」の絶対性を疑いたくなるような胸踊る冒険があるのかもしれません。その冒険譚をひもとく新たな冒険が、私の進めたい歴史研究にあると思っています。

領域が近い研究者を探す

人文・社会系領域