藤村 達也 Tatsuya Fujimura

京都大学大学院教育学研究科助教※助成決定当時

2023稲盛研究助成人文・社会系

採択テーマ
戦後日本における大学受験の大衆化と日本型受験産業の展開
キーワード
研究概要
戦後日本において受験競争が大衆化するなかで、受験産業は情報産業としての性格を帯びるようになり、その影響力は大きく拡大してきました。いまや進路選択や進路指導には模擬試験や偏差値がなくてはならない存在となっていますし、受験勉強のあり方も予備校などの受験産業が提示する学習法や入試対策によって規定されている部分が小さくありません。現代日本の教育を陰ながら規定している受験産業が、いかにしてこのような影響力を有するようになったのかを歴史的な視点から明らかにすることがこの研究の目的です。

助成を受けて

日本の教育学はどこか学校中心主義的な側面があり、その影響力の大きさに比して学校外教育の存在は十分に注目されてきませんでした。他方で、英語圏では学校外教育に関する研究蓄積は非常に充実しているものの、各々の国や地域の歴史や文化を捨象してしまう西洋中心主義的な傾向と、それがもたらす理論的限界があるようにおもわれます。日本の学校外教育を歴史的な視点から問うことで、国内外の教育学領域におけるフロンティアを切り開く、そんな研究ができればとおもっています。

研究成果の概要

受験競争がどのように経験されているのかを捉えるうえでは、受験をめぐる意味秩序、すなわち受験文化の視点が必要である。本研究は、増進会の通信添削とその会報『増進会旬報』を対象に、受験メディアを通じて形成され共有される受験文化の特徴と機能がいかなるものであり、それが大学受験の大衆化によってどのように変容したのかを明らかにすることを目的とする。1950年代から1960年代の『旬報』上では投稿欄や筆名を用いた会員間の活発なコミュニケーションが行われ、「Z会」に対する共同体意識が生じていた。またそうした共同性を基盤にした会員間の競争が学習意欲を向上させる装置として機能していた。その後1970年代以降になると、会員の増加・多様化や成績管理の合理化により『旬報』の構成やそこでのコミュニケーションが変化したことで共同性は衰退し、加熱装置の中心は共同性に基づく会員間競争から、個別化された学習管理へと移行した。


藤村達也 (2024年11月)「独学する受験生たちの紙上共同体―メディア文化としての受験文化の機能と変容」『ソシオロゴス』48号、pp.84-103


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