戸部 裕史 Tobe, Hirobumi

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所助教※助成決定当時

2020稲盛研究助成理工系

採択テーマ
高温で駆動可能なPd-Ti-Zr形状記憶合金の開発
キーワード
研究概要
形状記憶合金は、自身が熱や力に反応して形状変化を生じることから、モータなどのいらない小型・軽量・高出力の駆動体として、幅広い分野で活躍しています。一方で、現在実用化されている合金の駆動温度は100℃以下となっており、家電、自動車、航空機、宇宙探査機、原子炉などにおいて、100℃を超える温度で駆動可能な新しい形状記憶合金が求められています。本研究では、Pd(パラジウム)-Ti(チタン)-Zr(ジルコニウム)合金という新しい形状記憶合金に対し、実用へ向けた特性改善を行うことを目的としています。

ひとこと

このたびは、稲盛財団研究助成にご採択いただき、心より感謝いたします。ご支援をもとに、より一層研究に励み、世の中をより良くすることに貢献したいと考えています。

研究成果の概要

Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Ni(ニッケル)、Pd(パラジウム)から成る合金を、組成を変化させてアーク溶解法により作製し、形状記憶合金としての駆動温度や結晶構造を系統的に調査しました。その結果、49.7Pd–(50.3-x)Ti–xZr (at.%)三元系合金(x = 15–20)およびそれらにNiを僅かに添加した合金が、100℃以上の駆動温度と高い合金強度、大きな形状回復ひずみ量を有する形状記憶合金の候補として選定できました。また、それらの候補の中から49.7Pd–30.3Ti–20Zr (at.%)合金に着目し、熱処理条件の最適化を検討しました。熱処理温度および時間が、駆動温度や析出物の種類およびサイズに及ぼす影響を明らかにすることで、最適熱処理温度(650℃)の条件下において、非常に小さな応力(200 MPa)でのひずみの発生と、その後の加熱による4.5%もの大きな形状回復を伴う、優れた形状記憶効果を実測することができました。駆動回数は1回~数回程度に制限されるものの、例えば宇宙探査機における太陽電池パネルの展開などの用途に適する、新しい形状記憶合金を開発できました。



  1. Tobe H, et al. (2022) Facilitation of detwinning through controlling crystal structure in Ti–Zr–Ni–Pd high temperature shape memory alloys. Acta Materialia 229: 117811. https://doi.org/10.1016/j.actamat.2022.117811

  2. Tobe H, et al. (2022) Novel Ti­–20Zr–­49.7Pd high temperature shape memory alloy with facilitated detwinning and precipitation strengthening. Materials Transactions 63: 975–980. https://doi.org/10.2320/matertrans.MT-M2022034



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