InaRIS フェロー (2020-2030)

高柳 匡 Takayanagi, Tadashi

京都大学 基礎物理学研究所教授※助成決定当時

2020InaRIS理工系領域

採択テーマ
量子エンタングルメントから創発する量子重力理論
キーワード
研究概要
重力のミクロな物理法則である「量子重力理論」を解明する糸口として、高柳氏が発見した「笠ー高柳公式」が注目されている。この公式は「エンタングルメント・エントロピー」とよばれるミクロな情報量が宇宙の面積と等しいという関係式であり、重力理論の宇宙は量子情報から創発することを示唆している。本研究では、独創的なアイデアをさらに発展させて量子重力理論を解明することを目的とし、私たちの宇宙がどのように生まれたのか、そのミクロな起源に迫る。

 


選考理由

基礎物理学におけるもっとも重要な問題の一つは、重力のミクロな物理法則を完全に理解すること、すなわち量子重力理論を解明することである。高柳匡氏が笠真生氏と2006年に発表したエンタングルメント・エントロピーのホログラフィックな導出(笠ー高柳公式)は、J. Maldacena氏が1997年にAdS/CFT対応(反ドシッター空間ー共形場理論対応)を提案して以来の最も重要かつ画期的な発見のひとつであり、この分野の流れを大きく変える影響力があった。たとえば、E. Witten氏は、2014年に京都賞を受賞した際のインタビューにおいて、「21世紀になってからのハイライト」として真っ先に笠ー高柳公式を挙げている。笠ー高柳公式はAdS/CFT対応に基づく微視的な説明がなされたことで、理論物理学における重要な公式として確立している。
 
高柳氏は以来14年間にわたって笠ー高柳公式を発展させ、ホログラフィー原理の仕組みの解明とその応用に主導的な貢献をしてきた。たとえば、高柳氏とM. Headrick氏は、フォン・ノイマン・エントロピーの強劣加法性と呼ばれる不等式が、笠ー高柳公式においては極小曲面の三角不等式という幾何学的な性質に帰着することを見出している。エントロピーの持つ深い性質が重力理論の幾何学的構造に反映されているというこの発見は、この分野のその後の発展を大いに刺激した。また、ここ数年にわたり、ホログラフィー原理の微視的なメカニズムにおいて、量子情報理論における量子誤り訂正符号が重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。このメカニズムの解明においても、笠ー高柳公式は本質的な役割を果たしている。
 
高柳氏の提案研究では、このように「笠ー高柳公式」を契機として広がってきた「量子情報」と「重力理論の宇宙」との深い関係性に関する新しい考え方をさらに推し進め、未だ発展途上にある量子重力理論の解明へ向けたブレークスルーを目指している。関係する高柳氏の最近の研究としては、「純粋化エンタングルメント」と呼ばれる混合状態に対してエンタングルメント・エントロピーを拡張した量が、AdS/CFT対応である種のワームホールの断面積に一致することを見出し、また、共形場理論の経路積分を離散化して計算する場合に、最も効率良く離散化することを要請すると自然に反ドジッター空間の幾何が現れることを発見したことなどが挙げられ、その新しい発展が注目されている。
 
ホログラフィー原理におけるエンタングルメント・エントロピーの公式の発見と、その後の発展における高柳氏の一連の研究は、量子重力理論や超弦理論の基礎的な成果であり、また同氏の研究は物性理論や量子情報理論との連携も促進している。このような研究成果に加えて、高柳氏は指導者としても優れており、彼の薫陶を受けて、すでに多くの若手研究者が育っている。高柳氏は、超弦理論研究の世界的なリーダーであり、InaRISフェローシップの支援により今後10年の日本における理論物理学研究を牽引することが期待される。


助成を受けて

InaRIS に応募した理由は、10 年という長い期間にわたって支援していただけるからです。私の研究は基礎研究で、腰を据えてじっくり取り組む必要があり、長期間サポートいただけるのは大変ありがたいです。InaRIS の支援を受けて、我々の宇宙がどうやって誕生したのか、根源的な問題に挑戦したいです。

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