
InaRIS フェロー (2023-)
名古屋工業大学大学院工学研究科教授・学長特別補佐※助成決定当時
2023InaRIS理工系
じっくりと触覚に向き合うチャンスをいただけた感謝と責任を感じています。本研究を通して、人々の多様性、自己や創造性の本質に踏み込みたいと考えています。10年後に自分がどのような景色を見ているか、期待と不安が交錯していますが、分野を超えた交流や共同研究を通じた共創に努めながら、自身の興味に邁進したいと思います。
[概要]
触覚共有の実現には、プリミティブな触知覚情報や皮膚・運動特性の理解が不可欠である。本研究では、触覚を構成する上で重要な振動について、従来注目されてこなかった時間要素の影響を解析した。振幅成分に加え位相成分が知覚に影響することを明らかにし、特に高周波までその効果が認められ、高精細な触覚の情報化への展開が示唆された。また、触動作における力加減の基本機序を解析し、指先の硬さと自然な押下力が有意に相関することを示し、この因果関係を支持する指先硬さを可変するデバイスも開発した。さらに、振動と並び知覚に重要であるが計測技術が進んでいない圧力分布について、振動伝搬と画像情報を組み合わせた推定手法を構築した。
[詳細]
触覚共有は機械刺激、知覚、認知レベルと状況や目的に応じて目標が異なるが、この実現には、触知覚を構成するプリミティブな情報の記述、個人の皮膚および運動特性との関係を明らかにする必要がある。そこで、空間自由度の少ない、かつ計測が可能な振動を対象に、これまで見過ごされてきた時間に着目した人の振動知覚を解析し、触覚の情報化に向けて新たな視点を得た。また、触覚は基本的に能動触であるため、触覚の共有に向けて個々人の自然な力加減の発揮機序を捉えることは重要であり、皮膚特性と摩擦に着目することで、基本的な因果関係を明らかにした。これら以外にも将来を見据えて、圧力分布計測技術の開発を進めた。以下に詳細を述べる。
1.時間に着目した振動に関わる触知覚原理の深化
対象に触れた際に皮膚に生じる振動は触感を決定する重要要素だが、従来は主に振幅成分に基づくエネルギーで説明され、時間的要素は十分に検討されてこなかった。本研究ではまず、波形や提示時間を変えた単純振動の知覚強度を測定し、一定のエネルギーを超えると知覚が飽和する傾向を確認した。さらに、一定周波数の正弦波振動の振幅を過渡的、速度的、加速度的に変化させた場合の検出感度の違いを示し、振動の時間変化が知覚に影響する可能性を示した。そこで、実際のテクスチャーをなぞった際の皮膚振動から位相成分を抽出し、ノイズ振動と組み合わせて提示した結果、位相成分を加えることで主観的類似度が向上することが示された。さらに、位相成分を特定の周波数範囲に限定し、主成分分析および多次元尺度構成法を用いて、皮膚振動における位相成分の物理的特徴および知覚空間を解析した結果、高周波領域まで時間的情報が知覚に影響することが示唆された。
2.触動作における力加減の基本メカニズムの解明
触知覚において人は目的や対象に応じて運動を戦略的に変化させる。一方、そのベースとなる運動にも個人差がある。特にものをなぞる際の押下力は、皮膚と対象との力学的相互作用に直接影響し知覚に大いにかかわるが、個人差は議論されてこなかった。摩擦係数と押下力の傾向を調べた結果、大きな力を発揮する被験者は低い摩擦係数を有し、知覚感度が低い傾向が明らかとなった。摩擦係数は接触面積と関与する。そこで、指先の硬さが自然な押下力の決定に影響すると考え、年齢を絞って両者を計測して関係を調べた。その結果、指先の硬さと自然な押下力が有意に相関し、指先が硬い人ほど、大きな押下力を使用する傾向が明らかとなった。これを基に指先の硬さを変化させるデバイスを開発、装着後の押下力の変化を計測すると、同じモデル上に結果が位置し、両者の因果関係が支持された。
3.分布圧センサの開発
触覚の情報化には、振動に加え圧力分布が欠かせない。一方、振動のように直接対象に触れながら圧力分布を計測する技術はない。そこで、振動伝搬と画像情報に着目し、触れる対象の映像と指に加えた振動の振幅変化による、指先圧力分布の推定技術開発に着手した。振動伝搬を効率化するセンサベースを開発し、画像と組み合わせ、マルチモーダル機械学習により、圧力分布推定の基礎原理を構築した。今後は、画像取得や指姿勢の補償法を開発し、試料を増やして検証を進めていく。
[主な発表論文]
[振動触覚に関わる知覚・認知]
T. Kuhara,,K. Komazaki, J. Watanabe, Y. Tanaka, Pseudo-dribbling experience using single overlapped vibrotactile stimulation simultaneously to the hand and the feet, Multisensory Research, Sep 24:1-20, 2025.
Y. Ju, X. Meng, H. Taguchi, T. S. Gunasekaran, M. Hoppe, H. Ishikawa, Y. Tanaka, Y. S. Pai, K. Minamizawa, Haptic empathy: Investigating individual differences in affective haptic communications, Proceedings of CHI'25, article no. 501, pp. 1–25, 2025.
[運動機序]
K. Kurimoto, D. A. Torres, Y. Tanaka, A. M. L. Kappers, F. Giraud, Individual differences of friction coefficient and normal force on friction perception, Proceedings of 2025 IEEE World Haptics Conference, pp. 78–84, 2025.
K. Kurimoto, A. M. L. Kappers, Y. Tanaka, Anisotropy in normal force and friction during active tracing, Proceedings of the EuroHaptics 2024, pp. 162–167, 2024.
[応用研究]
H. Suzuki, H. Yukawa, K. Minamizawa, Y. Tanaka, Effects of operation prediction sharing for collaborative avatar robot, IEEE Access, vol. 13, pp. 25419–25431, 2025.
C. Ikejiri, H. Yukawa, Y. Tanaka, Comparison of perceptual characteristics of vibrotactile and squeezing stimuli in haptic devices, Proceedings of EuroHaptics 2024, pp. 103–113, 2024.
上記を含めて,学術論文12件(ジャーナル論文:5件,国際会議論文:7件),解説2件,学会発表30件(国際:4件,国内:26件),招待講演15件,特許出願1件
19世紀半ばから20世紀半ばにかけて発明され実用化された電気通信と電子計算機は、現在、高度に統合されたグローバルな計算機ネットワークを構成し、人間の知的活動および身体活動を支援する情報基盤システムとして社会・経済活動に不可欠な存在となっている。それを支えたのは、計算機間をつなぐ有線・無線通信のデジタル化とさまざまな計算機の構成要素の未曾有の高機能・高性能化と、学術基盤としての「情報学」の深化・発展の相乗効果である。同時に、人間の五感を通じて情報システムとのさまざまな情報を交換する技術の発展も大きく寄与している。「情報技術」の革新や製品開発は、他の分野において類を見ないほど急速に進展してきており、今後さらに10年以上先を見越した分野を切り拓くことが望まれている。
情報システムにおいて、人間や実世界とシステムの接点である入出力インタフェース技術は、計算・記憶・通信と並んで重要な構成要素である。AIの発展によって、実世界での現象を多元的にセンシングして捉え、計算、分析、判断の結果を出力したり、ロボットや自律システムを制御して実世界に高度に反映させたりすることが可能となっている。特に聴覚と視覚の理解と関連技術の発展により、人や機械間の高速・高品質な遠隔コミュニケーションと気軽なインタラクションが可能となっている。次の五感のフロンティアは触覚と言われ数々の技術の開発が試みられているが、触覚の理論の解明は端緒についたところで、社会基盤となるような革新的なデバイスがないのが実情である。
田中氏の研究提案は、触知覚を情報学的に理解し、個々人の触覚を情報化することを目指している。触覚を、身体と外界との力学的相互作用の認識と捉え、対象に触れる皮膚の力学特性、触覚と運動の相互制御特性、情報フィルタリングを行う認知的特性などの内的特性の理解からアプローチし、現象的に触覚を捉えて変調・計測・提示・共有する技術を確立しようという野心的な構想である。触知覚の基盤となる理論の開拓と技術開発により、情報システムがマルチモーダルなインタラクションを獲得し、情報通信とAIに革新をもたらすことが期待される。田中氏はこれまでに、個人の触覚を数値化、活用する研究開発に取り組み、感度、運動、材質感、心地よさに関して、皮膚特性、運動特性、認知特性を明らかにするなど、独創的なアプローチで研究成果を挙げてきている。同氏は、今回の提案でこれらの断片的な研究を統合的に明らかにすることを目指しており、触知覚原理を解明する手がかりに着手している数少ない研究者である。
田中氏は新時代の触知覚研究を牽引する気鋭の研究者である。InaRISフェローシップの支援により、同氏の今後10年の研究期間を通して触知覚による主観的情報の流通や⾮⾔語による他者理解が進み、より身体性と密に接続した情報学、すなわち「水平線の彼方の情報学」ともいうべき分野が開拓されることを期待する。触知覚の活用により多様性の尊重と他者との共創が促され、感性や技が豊かに創造・伝承される社会の構築に貢献することが望まれる。
2025年10月16日、17日の二日間、稲盛財団(京都市下京区)において、「稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシップ」のアドバイザリー・ボード・ミーティング(以下、ABM)が開催されました。ABMではInaRISフェローが自身の研究の進捗と展望について発表し、運営委員や他分野のフェローとの活発な議論が行われました。
2025年度InaRISフェロー紹介動画を公開しました!
2026年度の稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシップの申請受付を開始しました。
本年度のInaRISフェロー募集対象テーマは「数学の深化と展開」。29件の申請の中から、厳正な審査を経て、東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構教授の戸田幸伸氏と、京都大学 高等研究院教授の平岡裕章氏の2名が選ばれました。
稲盛財団は3月14日、2025年度稲盛科学研究機構(InaRIS: Inamori Research Institute for Science)のフェローを発表しました。2025年度InaRISフェローは、「数学の深化と展開」で公募を行い、29名の応募者の中から、戸田幸伸氏(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構・教授)と平岡裕章氏(京都大学高等研究院・教授)の2名が選ばれました。
InaRISフェローシップは、好奇心の赴くまま、存分に壮大な研究に取り組むべく1人につき10年間継続・総額1億円の助成を行う研究助成プログラムです。2026年度のInaRISフェローシップについてお知らせいたします。
2024年10月17日、18日の二日間、稲盛財団(京都市下京区)において、「稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシップ」のアドバイザリー・ボード・ミーティング(以下、ABM)が開催されました。
2024年度InaRISフェロー紹介動画を公開しました!
2025年度の稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシップの申請受付を開始しました。
2024年度InaRISフェロー、星野歩子氏(左)と鈴木洋氏(右) 4月20日、京都市内のホテルで、2024年度InaRISフェロー授与式を行いました。 2024年度InaRISフェローは「異分野コンバージェンスによる⾰...
2025年度InaRISおよび稲盛研究助成の募集要項を公開しました。
公益財団法人稲盛財団(理事長 金澤しのぶ)は3月15日、2024年度稲盛科学研究機構(InaRIS: Inamori Research Institute for Science)のフェローを発表しました。2024年度I...
InaRISフェローシップは、好奇心の赴くまま、存分に壮大な研究に取り組むべく1人につき10年間継続・総額1億円の助成を行う研究助成プログラムです。2025年度のInaRISフェローシップについてお知らせいたします。 &...
プレゼンテーションを行う2023年度InaRISフェローの田中由浩氏 「稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシップ」の運営委員やフェロー同士が研究内容について議論を交わす「アドバイザリー・ボード・ミーティング(ABM...
2023年度InaRISフェロー紹介動画を公開しました!研究にかける熱い想いやちょっと意外な日常など、フェローの魅力をギュッと詰め込んで紹介します! 亀井 靖高 氏(九州大学大学院システム情報科学研究院准教授) 「機械と...
稲盛財団は、5月23日、2023年度の稲盛科学研究機構(InaRIS: Inamori Research Institute for Science)フェローシップの申請受付を開始しました。
4月22日、京都市内のホテルで、2023年度InaRISフェロー授与式を行いました。 2023年度InaRISフェローは「水平線の彼方の情報学」をテーマに募集し、厳正なる審査の結果、九州大学大学院システム情報科学研究院准教授の亀井靖高氏と、名古屋工業大学大学院工学研究科教授の田中由浩氏の2人が選ばれました。
InaRISフェローシップは、好奇心の赴くまま、存分に壮大な研究に取り組むべく1人につき10年間継続・総額1億円の助成を行う研究助成プログラムです。2024年度のInaRISフェローシップについてお知らせいたします。 &...
2024年度InaRISおよび稲盛研究助成の募集要項を公開しました。
公益財団法人稲盛財団(理事長 金澤しのぶ)は3月17日、2023年度稲盛科学研究機構(InaRIS:Inamori Research Institute for Science)のフェローを発表しました。2023年度In...
「稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシップ」の運営委員やフェロー同士が研究内容について議論を交わす「アドバイザリー・ボード・ミーティング」が10月4日、稲盛財団(京都市下京区)にて開催されました。 I...
4月23日、京都市内のホテルで、2019年InaRISフェローシップ創設以来初となる、InaRISフェロー授与式を開催しました。
本日、2023年度InaRISおよび稲盛研究助成の募集要項を公開しました。 募集要項は以下のページよりご覧いただくことができます。 InaRIS: https://www.inamori-f.or.jp/inaris 稲...
公益財団法人稲盛財団(理事長 金澤しのぶ)は3月18日、2022年度稲盛科学研究機構(InaRIS:Inamori Research Institute for Science)のフェローを発表しました。2022年度In...
InaRISフェローシップは、好奇心の赴くまま、存分に壮大な研究に取り組むべく1人につき10年間継続・総額1億円の助成を行う研究助成プログラムです。2023年度のInaRISフェローシップについてお知らせいたします。 &...
「稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシップ」の運営委員やフェロー同士が研究内容について議論を交わす「アドバイザリー・ボード・ミーティング」が10月3日、オンラインで開催されました。 InaRISは、短期的に成果を求...
稲盛財団は、2021年5月21日、2022年度の稲盛科学研究機構(InaRIS)フェローシップの申請受付を開始しました。今年度の募集対象分野は「物質・材料」研究の前線開拓です。
公益財団法人稲盛財団(理事長 金澤しのぶ)は3月19日、2021年度 稲盛科学研究機構(InaRIS:Inamori Research Institute for Science)のフェローを発表しました。2021年度I...
InaRISフェローシップは、好奇心の赴くまま、存分に壮大な研究に取り組むべく1人につき10年間継続・総額1億円の助成を行う研究助成プログラムです。2022年度のInaRISフェローシップについてお知らせいたします。 &...
(左から順番に・敬称略)稲盛財団理事長・金澤しのぶ、InaRIS機構長・中西重忠、InaRISフェロー・高柳匡、InaRISフェロー・野口篤史、InaRIS選考委員長・十倉好紀 挑戦的な研究にじっくり10年間トライできる...
稲盛財団の2つの研究助成である「稲盛研究助成」と「InaRIS」の2021年度の申請受付が、5月21日からはじまりました。 稲盛研究助成は、より多くのアイデアの実現可能性を検証する機会を提供して多様性と独創性のある研究を...
公益財団法人稲盛財団(理事長 金澤しのぶ)は本日、2020年度稲盛科学研究機構(InaRIS:Inamori Research Institute for Science)のフェローを決定しました。本プログラム初となる2...
InaRISフェローシップは、好奇心の赴くまま、存分に壮大な研究に取り組むべく1人につき10年間継続・総額1億円の助成を行う研究助成プログラムです。 本年の公募に先立ちまして、プログラム内容や申請資格等について、東京・京...
InaRISフェローシップは、好奇心の赴くまま、存分に壮大な研究に取り組むべく、1人につき10年間継続・総額1億円の助成を行う研究助成プログラムです。2021年度のInaRISフェローシップでは、下記のキーワードに関わる...
国内の自然科学、人文・社会科学の若手研究者を対象に、多彩な研究活動を助成することによって、それぞれの研究者の可能性を開花させ、さらに大きな課題に取り組む契機を創出することを目的としています。
InaRIS(稲盛科学研究機構フェローシッププログラム)および2020年度稲盛研究助成に関する募集要項を公開しました。
稲盛財団は本日、文部科学省(東京都千代田区)において記者会見をおこない、新たな助成プログラム「稲盛科学研究機構(InaRIS※)フェローシップ」の創設を発表しました。
理工系領域




