InaRIS フェロー (2026-2035)

沙川 貴大 Takahiro Sagawa

東京大学 大学院工学系研究科教授※助成決定当時

2026InaRIS理工系

採択テーマ
非線形・非平衡トポロジーとその熱力学への応用
キーワード
研究概要
非線形性や非平衡性は、生物から量子まで多彩な系で重要な役割を果たします。本研究では、非線形・非平衡系を「トポロジー」の観点から解析し、擾乱に強い安定なふるまいが生まれる原理を解明します。とくに古典確率過程や非線形振動子など、従来トポロジーがあまり議論されてこなかった対象に注目し、新たなトポロジカル物理の地平を拓きます。さらにそれを熱力学へと応用し、省エネルギーな熱機関・情報処理の設計原理を提案します。

助成を受けて


選考理由

沙川貴大氏は、熱力学に情報の概念を取り入れた理論を定式化し、「情報熱力学」と呼ばれる分野を創始した。情報とエネルギーの関わりについては、いわゆる「マクスウェルの悪魔」の問題に端を発し、シラード、ベネット、ランダウアーらによる思考実験に基づく議論はあったが、それを定量的かつ普遍的な形で定式化したことに大きな意義がある。現在、この分野は理論・実験ともに多くの研究が展開され成熟しているが、その過程においても沙川氏は一貫して分野を牽引してきた。また、量子情報理論に基づく熱力学リソース理論、および孤立量子多体系の熱平衡化の問題に対しても基礎的な成果を残している。以上のように、同氏は熱力学と量子情報の融合領域を開拓してきた。

沙川氏の提案研究は、熱力学と量子情報に加え、新たにトポロジーの軸を導入することで、研究分野のさらなる拡張を目指すものである。物理現象のトポロジカルな性質に関する研究は、量子ホール効果の発見以降、対称性によって保護されたトポロジカル相の分類など量子系において大きく進展し、近年では非エルミート系への拡張を介して、古典流体やアクティブマターなどでも研究されつつある。沙川氏自身も、非線形系でのトポロジカル数を提案し、それに基づくバルクエッジ対応の実証やカオスへの転移を明らかにしてきた。本研究ではこれを深化・拡大し、情報熱力学との融合を図ることで、新たな理論体系の構築を目指している。

具体的には、非平衡系のトポロジーについて、相互作用する多体系を記述する確率過程や量子マスター方程式に対し、トポロジーを用いた制御の実現を目指す。この理論体系と深く関わる現象として、同氏は多体系の情報熱力学を挙げている。多体系に対する測定やフィードバックのトポロジカルな特徴づけを行い、エントロピー生成の非従来的な寄与を同定しようとしている。また、非線形系のトポロジーについては、トポロジーと力学系の融合による「非線形系のトポロジカルな分類」というさらに壮大な計画を掲げている。これは新しい数学分野の創出にもつながる可能性を秘めている。

沙川氏の挑戦は、熱力学、情報、量子、そしてトポロジーの諸概念を非平衡科学の地平で一つに編み上げ、未踏の理論体系を打ち立てるものと期待される。既存の学問領域の境界を突き破り、新たな普遍原理を導き出そうとするその真摯な姿勢は、10年という長期支援を通じて「科学の常識を覆す壮大な問い」を奨励するInaRISフェローシップの理念を体現するものであり、選考委員一同、その圧倒的な発展に強い期待を寄せている。



助成を受けて

私はこれまで非平衡熱力学・情報熱力学や量子情報理論を中心に研究を進めてきました。しかし実は「トポロジー」は、物理と数学の両面から、学部生時代以来ずっと強い関心を持ち続けてきたテーマでした。本助成を機に、非線形・非平衡系のトポロジー研究を大きく発展させ、研究者としての新たな軸を確立したいと思います。

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