境 祐二 Yuji Sakai

京都大学医生物学研究所特定准教授※助成決定当時

2023稲盛研究助成生物・生命系

採択テーマ
細胞内分解機構の理論的解明
キーワード
研究概要
細胞内の恒常性には細胞内分解機構が必要不可欠です。オートファジーにおいて、膜が変形しオートファゴソームを形成することで分解基質を取り囲み、それがリソソームと融合することで分解します。つまり、細胞内分解機構の解明には、膜ダイナミクスを理解する必要があります。制御分子はわかりつつありますが、これらがどのように巨視的な膜ダイナミクスを制御しているのかは謎のままです。本研究では、数理的手法を用いることで、高度な細胞内分解システムを膜の変形や融合といった単純な物理現象として解明します。

助成を受けて

この度は稲盛財団の研究助成に選んでいただき、大変光栄に思います。本助成を励みに新たなことに挑戦し、細胞内ダイナミクスを数理の視点から変革していきたいと思います。

研究成果の概要

オートファジーはオートファゴソームを介した細胞内分解システムであり、細胞内恒常性維持にとって重要である。オートファゴソーム形成はオートファジーにおける基本的なプロセスであるにも関わらず、これまでその特徴的な形態変化は体系的かつ定量的には記述されていなかった。そのため、その根底にある物理学的基盤はほとんど解明されていなかった。


本研究ではオートファゴソームの形成過程を三次元電子顕微鏡法により網羅的かつ統計的に調査することで、その標準形態を決定した。この形態的特徴を理解するために、膜の曲げ弾性エネルギーに基づく数理モデルを構築した。得られた数理モデルは、電子顕微鏡法で観察されたオートファゴソーム形成時の形態を定量的に再現した。また、数理モデルは形成中のオートファゴソームの開口部を安定化させる因子を予測し、Atg20-24複合体がこの制御因子であることを発見した。数理モデルは、このAtg20-24複合体欠損時のオートファゴソーム形成の形態変化を説明する。


本研究成果は、一見複雑に見えるオートファジーの膜動態が、単純な物理機構に基づく理論モデルによって解析できることを示唆している。今後、オートファゴソーム形成機構のさらなる理解につながると期待される。


Yuji Sakai, Satoru Takahashi et al. (2024) Experimental determination and mathematical modeling of standard shapes of forming autophagosomes Nature Communications 15 (91) doi: 10.1038/s41467-023-44442-1


Tetsuya Kotani, Yuji Sakai et al. (2023) A mechanism that ensures non-selective cytoplasm degradation by autophagy Nature Communications 14 (5815) doi: 10.1038/s41467-023-41525-x


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